2006年03月17日

●『魔の山』トマス・マン

岩波文庫・赤、上584/下649p(訳注・解説除く)

 舞台はまだ結核が大病だった時代、1900年代初頭。
 スイス高地のサナトリウムで結核の療養をする従兄弟を、主人公のハンス・カストルプ青年が訪ねるところから話が始まる。
 目的はあくまで従兄弟を訪問・激励することであったが、滞在地でハンス青年も結核であることが判明し長期滞在を強いられる。
 その後の長い療養生活の中、青年は様々な人間や出来事に出会う。
 その様々を読んでいくのが大変だったが、あらすじはこんなところ。

 上巻ではまだ内容に付いていけた。しかし下巻に入ってすぐに新たな登場人物が登場、その彼が論戦を繰り広げるのだがこれが難解で困った。
 小説終盤部ではそれまでの停滞、不変という雰囲気が一変して動き始め、オカルト的な笑い飛ばすべき要素も出現する。発見といえば20世紀初頭の欧米にこっくりさんが存在したということか。
 そして反戦っぽい雰囲気を漂わせながらラストシーン。

 これは教養小説というジャンルに分類されるようだ。

教養小説とは、(多くの場合幼年期から成年にかけて)主人公の精神的、心理的、または社会的な発展を描く小説のこと (Wikipedia)

 ジャンルとしてはすでに絶滅と言って良さそうだ。
 『魔の山』には第一次大戦前後における、いわゆる「常識、学問」の類の教養はかなり多分野にわたって書かれている。科学分野になると現代との内容の違いがまた面白かったりもする。
 しかしながら、主人公の成長という点では疑問。山の上で暮らす間、知識や弁論術は格段に上昇しているものの、毒にも薬にもならないような事を無駄に論じる詭弁癖はまるで改善の様子がない。「単純な青年」と冒頭で言われたその本質はまるで改善の気配がない。
 人間として成長(あやふやな言い方だが、他に表現が思い当たらない)はされていないのではないかというのが感想。解説からも、確かにそれは達成されていないと見て良いらしい。

 読了には1ヶ月以上かかった。春休みの課題読書的なものだったから荷が下りたというのが正直な感想。
 今は漫画かライトノベルが読みたい。(笑

 2820p/42195p

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