●シリーズ認知言語学入門『認知意味論』
大修館書店/314p
シリーズ認知言語学入門の第三巻として、認知意味論を扱う入門書。認知意味論の歴史的発展から、現行の研究を含めた様々の研究を紹介しており、一読で意味論の世界を俯瞰できるようになっている。選んでいる語がやや専門的で認知論に背景知識がないと少々読みづらい箇所も多いが、それだけに内容は濃密で、同分野であれば新書三・四冊分ほどの知識・理解が得られると考えてよい。また専門語を多用しているために、しっかりと読みきれば相当数の認知言語学語彙を理解することができる。
一章は認知意味論の概略について解説。二章は語の意味としてチェックリスト意味論、プロトタイプ論、イメージ・スキーマなど意味論における基本的な語の定義を簡単に解説。三章はメタファー・シネクドキー・メトニミーの三種の比喩についてその定義と性質を確認し、概念メタファー論へ展開していく。四章は多義性をめぐる数々の議論が紹介され、スキーマに基づくモデルを中心に多義性の意味を考えていく。五章はメタファーに関する伝統的な緒説を確認した後、それらの問題点を挙げ、新たな説として概念メタファー論、及び概念融合の基本的考え方を解説。六章は色彩語彙・動植物語彙といった具体的な語彙を元に、意味の普遍性と相対性がどのように理解されるべきかを、人類言語学の見地から考察。以上六章で構成されている。
個人的には四章で見た多義性に関する議論と、五章の主題である概念メタファー論の考え方が興味深い。overに関するスキーマ変換の数々は、生徒に英語を教える上でも実に有用なものだと感じた。こういったことが、無意識ではあってもまさにネイティブの持っているoverのイメージに違いないのだ。あらゆる前置詞について教える側がそのスキーマを知っていることは、きわめて重要であると思う(思い返せば英語の某師がしきりに話していた前置詞の「イメージ」はまさにここで紹介されていたようなスキーマそのものであった)。
本文中で何度か引用されていた、左藤信夫『レトリックの記号論』も手に入れば是非読んでみたいと思う。
ちなみに、シリーズ物ではあるが、どの巻もほとんど他と独立しているために、一巻から読む必要はない。
12859p/42195p