2006年08月03日

●アントニイ・バージェス『時計仕掛けのオレンジ』

ハヤカワ文庫/268p

裏・アルジャーノンに花束を。
なるほど、ここまでシュールレアリスティックな世界は文学という手段以外で表現することは難しいかもしれない。形容しがたく荒んだ世界で、人々の行動は実に自然に常軌を逸している――例外なく。しかもここで語られる超現実は、来るべき私たちの現実であるかもしれないというのだから。この小説が「風刺小説」たる所以だろう。

「よう、これからどうする?」

この話を読むに当たって、最低でも三回、まったく違った場面でこの言葉を聞くことになる。実際にはもっともっと多い。問いかけているのはいつも主人公のアレックスだ。シンプルだが「これからどうする?」という言葉は、そこに行動主体としての自由がなければ決して意味をなさない。この他にも様々な自由を暗示する言葉が作中に登場する。テーマとしての”自由”を越えて、バージェス自身の自由への渇望が聞こえてくるようにも思えた。

また面白いのは、残虐な暴力シーンが多いにも関わらず、読んでいて嫌悪をもよおすことが意外に少ないことだ。随所にそのようなシーンを挟みながらも、物語は淡々と、単調に、結末へ向かっていく。登場人物たちに持続の厚み、つまり、現実世界に生きる者としての、時間的なリアリティがないのだ。単なる作者の筆力不足だろうか。それとも、この一連の物語さえ、ひとつのクロック・ワークに過ぎないからなのだろうか。

13339p/42195p

コメント

初コメントお邪魔します。
早いね!思わず笑いました。
私はこれ、世界観が好きですよ。あとスラングの作り方がね。ロシア語ベースなんてナンテかっこいいんだろう。
私はこの本、小説というよりも音楽みたいなもんだと思っております。テクノな世界です。感覚的な読み物として、楽しんでもらえたらなうれしいんだけど。

バイト帰りに本屋さんを4つ巡ってようやく見つけて、その日のうちに読みました。

スラングについてはやはり翻訳版ということで、ちょっと面白みに欠け。ロシア語ベースなのは「ハラショー」でわかりましたけれど(笑) そういえばあれだけ一度もルビ振ってませんでしたね。日本語にするとどんな感じになるのでしょう。

音楽。テクノ、というのはわかる気がしますね。ただ、残念ながら好みには合わなかったというところです。感覚的な読み物としては今一歩、倫理的な含蓄が表面的すぎる気もして。かといってストーリーとしても、単に「よくできたお話」という感じで――なんでしょう、一言で言えば美しさに欠ける気がしました。美しさ! なんて抽象的な言葉でしょう。こんな謎めいた言葉で批判しhてしまうのも申し訳ないのですが。^^;

じゃあどんなのが美しいと思うのさ、と言われましても難しいところですが、恐らく次にフルマラソンのレビューに書くであろう小説のようなものが、個人的には好みだったりします。最近読んだところではやはり、ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』辺りでしょうか。はじめて読んだ小説らしい小説の、シュテイフターの『水晶』もいまだに名作だと思っています。インプリンティング効果なだけかもしれませんけど(笑)

とはいえ、何も無駄な時間を喰わされたとかそんなことは微塵も思っておりませんのでご安心を。(笑) じゃあこれならどうよ! っていうものがありましたらまた、是非リクエストしてくださいませ。さくさく読んで見せます。

んじゃ、懲りずにリクエスト^^
大江健三郎 「芽むしり仔うち」
イライラしちゃう本ですが、中学生の頃から好き~。
暇なとき読んでみてねっ

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