●『ヘンリ・ライクロフトの私記』G・ギッシング
岩波文庫・赤、300p
およそ100年前の発刊以後、イギリスで読まれ続けている書物らしい。
イギリス人によるイギリス人のためのイギリス愛を語る著書である。
所々良い事を言う/きれいな表現がある以外、内容は自国愛に凝り固まっていると言える。
当時のイギリスの堕落具合を嘆きつつ、それでもやはりイギリス大好き!と最後には結論が出てくる。
不味いことで評判な料理までイギリスが最高だと言い出す始末。それだけならず、自国と比較して他国を貶める表現すら出現する。いわばイギリス版頑固爺いである。
こんな書物は国内でしか通用しない。
しかし、イギリス人の根底に流れているかもしれない自国への考え方を汲むにはうってつけとも言うことができるだろう。
作者は極めて貧困を極めた、まさに糊口を凌ぐ青年~壮年期を送った人物である。
その間、生きるためだけに書き続けたために何かが死んでしまっている気がする。しかしそのことを誰が責められようか。
われわれがライクロフトを、そしてさらにライクロフトの仮面の後ろにいるギッシングの反動性を、現実逃避を弾劾することはやさしい。 しかし、そういう直截的な断定はこの私記のよさを味わうことからは縁遠いことといわなければならない。 ここに見られる牧歌的な情緒が、ライクロフトが体験した醜悪な都会を背景にしてはじめて理解されるように、この反社会性も、矛盾し対立し、アムビヴァレンス(ambivalence:矛盾する感情を同時に抱いている精神状態)を体験してきた人格が最後に自分に忠実になろうとして叫んでいる告白として見るときに、妥当な理解が得られるといえよう。……
若造には解らない書なのかもしれない。
今はイギリス文化の参考書程度に考えておくのが妥当か。
午前中ずっと空気は不気味に静まりかえっていた。本を読みながら座っていると、私は静けさをじかに感ずるような気がした。 窓のほうを見ても、広い灰色の空のほかは何も見えなかった。一切がただ冷たい、憂欝な、とりとめもない広がりだけであった。後になって、午後の散歩に出かけようと身支度をしかけたとき、なにか白いものが私の視線をかすめて落ちてきた。それからものの二、三分もたつと、一切は黙々と降りしきる雪の帳に覆われてしまった。
こういう表現が好きな人は読みきれるでしょう。逆にこの句に何も感じないならば、ただの退屈が待っているだけだ。
19237p/42195p