2006年10月07日

●『城』カフカ

新潮文庫、630p

 物語の主人公となるのは測量師Kなる男である。
 測量師として城に招聘され、そこで職を得る筈であったKだが、何の手違いかまるで測量の仕事を与えられる気配は皆無である。
 城の役人を直接訪ねることもできず、滞留する村にも見知っている人間は一人たりともいない。そこで、Kは様々な手を使って事態の打開を図るのだが……
 
 特徴的なのは、Kは城の役人たちに顔を合わせる機会をほぼ持てず、また役人の側もそれを与えようとはしない点である。
 このまるで掴みどころのない相手に対し、Kは周囲の村人を口で丸め込んで是が非でも接触しようとする。

 この、口八丁でことを乗り切ろうとするKに向けられた最も的確な台詞が次である。


 たしかにあなたは、どんなことでも見事に論破することがおできになります。でも、結局は、なにひとつ論破されていませんのよ。ねえ、イェレミーアス、この人は、なにもかも見事に論破してしまったのよ!

 …(中略)…

 でも、仮にこの人がなにもかも論破し去ったとしても、それで何が達成されたというのでしょうね。それがわたしになんの関係があるのでしょう。


 この物語に現れる「城」、そしてそこに巣食う多数の役人・執事は、現在の(といっても執筆は80年以上前であるが)官僚機構に喩えられることが多い。
 カフカが生前、そのような機構で職についていたというものが根拠だが、果たしてどうだろうか。
 そのあたりは、以前の記事にある『小説の自由』(保坂和志)にも論じられているので、セットで読むのも良いのではないだろうか。


 ……『小説の自由』、やっぱりどこかへ行ったきり出てこないんだよなあ

17665p/42195p

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