●アンドレ・ジイド『狭き門』
岩波文庫・赤/221p
主よ! ジェロームと私と、手を携え、互に助け合って、主の御許へ進むことができますように。人生の旅を、二人の巡礼のように、一人が「疲れたら私におすがり」と言えば「君がそばにいてくれればそれでたくさん」と他が答えながら進むことができますように。いえ、いえ、主よ、あなたの示し給う道は、狭いのです。――二人並んで進むことができない程狭いのです。
珠玉の感動もの。
登場人物や人物間関係の細かい設定についてはすでにこちらでひまじんが解説してくれたので省略します。
ジェロームは生きている間の恋の成就に焦がれている。しかしアリサが望むのはこの地上を去って後、天上で二人揃って神に愛されることである。アリサにとってはそれこそがジェロームとの永遠の恋の成就であった。そのためには地上の恋は大きな障害であった。ジェロームが神よりもアリサを愛してしまったからである。
神を第一に愛さないものは決して神には愛されない。ジェロームが天上の幸福を投げ出し神を捨てることは、ジェロームの幸せを願うアリサにとって耐え難いことだった。それならばいっそジェロームに愛されない人間になって、再び彼を神のもとへ帰してあげることが自分のつとめとアリサは決意する。たとえ今度は自分が神から見捨てられることになっても、せめてジェロームだけでも天上で幸福を得られれば――。
この自己犠牲が悲愴にも美しいのは、何よりもアリサがそれを心から嘆いていることにあると思う。ジェロームだけでも幸福になれれば私はそれで満足、と簡単に割り切れるものではなく、アリサは最後まで「二人で」幸せになりたかった。地上を離れてもジェロームの傍に身をおいていたかった。そのための道は目の前に広がっていて、あとはそのまま一緒に手に手をとって進んでいけばいいように思えたのだ。しかし神の示した道は無情にも「二人並んで進むことができない程狭い」ものだった。力を尽くして狭き門より入れ。ジェロームは力を尽くした。アリサも力を尽くした。だが、二人並んで通ることは許されない。なんと「狭き門」だろうか。
たとえいくつの感想や解説を読んだあとでも、読後の感動は決して色褪せない。
どこか薄っぺらい近頃の”感動もの”に飽きたという方は、500円玉でおつりのくるこの本を手にとってみては。
18795p/42195p