2006年11月04日

●H.D.ソロー『森の生活』

岩波文庫・赤/675p

私が森へ行ったのは、思慮深く生き、人生の本質的な事実のみに直面し、人生が教えてくれるものを自分が学び取れるかどうか確かめてみたかったからであり、死ぬときになって、自分が生きてはいなかったことを発見するようなはめにおちいりたくなかったからである。人生とはいえないような人生は生きたくなかった。生きるということはそんなにもたいせつなのだから。

語られている内容から判断すれば、平均的な「青」以上に青テイストな「赤」。
ひとことで言えばウォールデン湖畔に自らの手で家を建てそこに暮らした一人の男の生活記録である。しかしそれは単に日記のような記録ではなく、背後にはソローが自然の中に見出した「生の哲学」が脈々と流れており、その末端にあたる思索の跡が随所に散りばめられている。彼が人生や自然について哲学的なことを語っている分量は、彼の身の回りの出来事の描写に匹敵するかそれ以上を占めている。森における生活の記述と得られた着想や思索の記述が交互に織り合わさってひとつの物語を成している。

作中に登場する多くの湖や森の写真がところどころに散りばめられていて、私たちにあまり馴染みのない、のどかな森の湖畔の風景を思い浮かべるのに大変よい手助けになる。ソローの辛らつな皮肉を味わいながら想像の翼に乗ってウォールデン湖畔を鳥瞰するのも、一風変わった楽しみ方であろう。

19912p/42195p

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