●シュテイフター『森の小道・二人の姉妹』
岩波文庫・赤/339p
アーダルベルト・シュテイフターの習作集から、選りすぐりの二編『森の小道』と『二人の姉妹』を収録したもの。『二人の姉妹』は本邦初訳である。
普通、感動ものといえば『狭き門』のように最後の最後に誰かが死んでしまったり、何かが成就しなかったり、あるいは誰にも不幸が訪れない場合には、よほど劇的で感動的なラストが用意されているかであると思う。めでたしめでたしの童話風な結末では、そうそう深い感銘は読者に残らない。ところが、『森の小道』と『二人の姉妹』はどちらの話も物語的にはありきたりなハッピーエンドで終わっているにも関わらず、陳腐どころかなんだかほっとするような心温まる印象と、読後も長い間胸にとどまる感銘を残す。これこそ、まさにシュテイフターの筆の巧みさの為せる業であろう。
夜には、彼女はそっと、いわば試みるとでもいうようにだけ弾いた。泉はまたときどき止められていた。そよ風が広大な自然のきらめきのなかに流れ、月はようやく満月になって、真に壮麗な輝きを荒れ野の上に投げていた。私はいつも窓を開け、窓に身を寄せながら、音のつづく限り聞いていた。
ところで、同じシュテイフターの『水晶』(岩波文庫・赤)のレビューをかなり前にした際に、この人の文章を「透明な筆」と形容したのを覚えている。この二作も同じような印象だった。透き通るような描写とだけいってもいまいちぴんと来ないかもしれないが、確かにそうなのだ。
どういう意味なのか気になる人には、これはもう実際に読んでもらうより他にない。
参考までに、ジャスト700円である。
21947p/42195p