●『刺青・秘密』谷崎潤一郎
新潮文庫、273p
短編集。表題の他に『少年』『幇間』『異端者の悲しみ』『二人の稚児』『母を恋うる記』が収録されている。
やはり切れ味がある。
『秘密』のみ以前に読み、大騒ぎしたのですが他もなかなかであると思う。
こういった雰囲気を出せる作家は現代にはいないだろう。少なくとも私は呼んだことがなく、よって喩えようもない。
独特の退廃的なエロさとでも言おうか。
ストーリーは劇的なものではないが、いずれも何かのきっかけで起きる大きな心情変化が主柱となっている。
描写は絵画的なシュティフターなどとはまた違い、活き活きした、というよりは生々しさが伝わってくる種類のものだ。
500円あれば買えますのでまずは読んでみることを勧めよう。
物書きとしてのひとつの完成系と言っても良い気がする。
しかし谷崎自身は、この頃(~関東大震災前と括れるようだ)の著作に関して「自分の作品として認めたくないものが多い」と言っているようだ。
ではそれ以降の作品はどうか?
『痴人の愛』のみ読んだが、これは当時センセーショナルな話題をさらったのだろうという以外に特別な感想はない。
文学史的な意味を抜いて現代に放り込めば、単なるSMプレイのはしりとしか見えない。面白みを欠いていた。
これが時期的な問題なのかどうかは、他の作品を読みつつ確かめてみたい。
22390p/42195p