●『春琴抄』谷崎潤一郎
新潮文庫、106p
谷崎の代表作とも言われる作品。
本文は74pと少なく、短編と言って差し支えがない。
しかし、句点を大幅に省いた特殊な形で改行なしに書かれているため、ボリュームはある。
例として引用するとこんな感じである。
彼女は所謂内面の悪い方であった外に出ると思いの外愛想がよく客に招かれた時などは言語動作が至ってしとやかで色気があり家庭で佐助をいじめたり弟子を打ったりする罵ったりする婦人とは受け取りかねる風情があった又附き合いのためには見えを飾り派手を喜び祝儀無祝儀盆暮れの贈答等には鵙屋の娘たる格式を以って中々の気前を見せ、下男下女おちゃく駕籠舁き(かき)人力車夫等への纏頭(てんとう:祝儀)にも思い切った額を弾んだ。
三味線の師匠、春琴は盲目の美女。その世話を一手に引き受ける佐助。
驕慢な彼女の世話を満足にこなせるのは、幼少の頃からそれを一手に引き受けた佐助のみである。
その傍若無人とも言える振る舞いから恨みを買ったせいか、春琴はある日、賊に顔をつぶされる。それを知った佐助は自らの目を針で突き、盲目と化して美しい春琴の像を内に保った。
以上が大まかなストーリー。
春琴は簡潔にまとめれば、ツンデレという一言で表せる。もっともデレの部分はかなり少ない。ツンデレが好みの人はぜひ読んでみると良いのではないだろうか。
内容は元々残っていた文書を元に、谷崎が想像をふくらませて推測を交えつつ書いたもの。このスタイルを取った小説は他にも書かれている。
真に印象的な小説というほどではありませんが、面白く読める。
あれこれ考えずにこの二人の行動・掛け合いを追って読んでいくだけで十分楽しめると思う。
また、最後の終わり方が上手い。これは読んだ上でないと感じようがないが、さらさらと話を進めた上で最後に疑問を投げかけて終わるというスタイルは他にあまり見たことがない気がする。
28763p/42195p